8月仏滅会報告

第245回関西例会仏滅会報告
外海弘美子

今年も猛暑を迎えましたが、8月4日エルおおさか南館にて第245回仏滅会が開かれました。今回地図がありませんでしたが、多くのご参加をいただきました。
 申し込みにあたって、利用目的と内容を詳しく書きなさいとの事だったのですが、「シャーロック・ホームズ及び19世紀イギリスに関する論文発表」と記入し、これは重々しい書き方だな・・・とも思いましたが、今回もまた講師の先生の教養溢れるお話が続き、申し込み通りの会となりました。知らなかったことを「知る」は楽しいことだと思いました。。
最初の発表は大川一夫会員の「スリーゲイブルズの弁護士の手法」です。「三破風館」と訳されることが多いのですが、先生は「破風」って現代日本人には馴染が薄いのでゲイブルズでいいんじゃない? ついでにスリーの後の黒点もこの場合いらないでしょう、とのことでタイトルは「スリーゲイブルズ」とつけられました。
 この作品は、ちょっと不思議で、人気作ではないのに研究テーマとしてはよく登場する作品です。私も読み直してみたところ、「指紋」の記述があったり、世界一周ができるだけの金額が書かれていたりなど、改めて驚かされました。
 弁護士スートロ氏についての記述は少ないですが、依頼人に信用されるベテランで有能な弁護士であろうと推測されます。その有能な弁護士であれば、泥棒に入られた段階で、ホームズと同じように推測することは出来たでしょう。当時のイギリスの「弁護士倫理」は過渡期にありましたが、依頼者の満足を考えたからと言って危険なことまでするとは限りません。しかし、ホームズは、加害者のイザドラ・クラインに会いメイバリー夫人に高額のお金を支払わせます。
 ホームズのこの行為は正しかったのか? 
 なんと、犯人を警察に言わなかったホームズは、当時のイギリスでは「共犯」とみなされ「重罪犯隠匿罪」になります。また、イザドラに対しての行為は日本でしたら「恐喝罪」に相当するそうです。実際のところ、イザドラは元々言い値で家を買うと言っていたので、お金で解決できれば問題なかっただろうし、メイバリー夫人は、行ってみたかった世界一周の旅ができたのですから満足されたと思います。
 スートロ弁護士はそのことをどう考えたのでしょうか? スリーゲイブルズでの別れ際にホームズと何か話したのではないかしら? その後今日までホームズがこの件で立件されることがなかったのは、それで良かったと思っていたのでしょうね。
 発表の後は、ティーブレイクとWEJ500号記念特別オークションの発表がありました。この日の出席者には落札本が交付され、遠方の人は郵送するとの事でした。近況報告はいろいろと楽しい話を聞けましたし、本の紹介もたくさんありました。なんと、私がチケットを取りそこなった、三谷幸喜作・演出シャーロック・ホームズのチケットを入手された方が~~。10月の仏滅会では感想をお聞きしたいものです(涙)
 次は眞下庄作会員による「ジョゼフ・ベル博士のレビュー『SHの冒険』1892」の発表でした。毎回眞下さんのレジュメは素晴らしく、今回はレビューを注釈入り全訳していただいたものをいただきました。英語に全く自信のない私はありがたかったです。原文を知りたい方は、眞下さんに問い合わせしてください。このレビューはThe Bookman誌1892年12月号に初掲載されました。同年5月号にコナンドイルがインタビューを受けて、「エディンバラ大学医学部での教授を思い出し、そのアイデアを借用した」と答えており、その教授こそがベル博士だという事でこのレビューの依頼につながったのではないでしょうか?
 「経験を積んだ内科医、教育・訓練された外科医は、毎日、喋らない・口の重い患者を前に、一人一人に合わせて緩急を加減しながら診断で同じ推理作業をしなければならない」とベル博士はホームズの推理の根源を語っている。
「冒険」の長所としては、「台所で気軽に座ってコーヒーを飲みながら、短時間に読書できる物語を提供してくれて、読者は読み始めの部分を忘れぬうちに、結末までたどり着く」そうです、今回読み直した「スリーゲイブルズ」がまさにその通りでした。
最後に、エディンバラの日本領事館がかつてベル博士の住まわれていた家だったというのは、日本とホームズとの縁を感じずにはいられません。
 両発表者の貴重なお話を伺った後は、楽しく二次会に行きました。
今回の仏滅会が、スムーズに行えたのも、副幹事の高野さんの多大なるご協力と出席していただいた皆様のおかげでございました。ありがとうございます。