12月仏滅会報告

令和元年12月仏滅会は、吉野 彰ノーベル・レクチャーが開かれた当日に、梅田駅近くで副幹事の田村智子、大倉瑞貴さんのお世話になり三人の講師を迎えて開催された。
最初の発表は、昨年の「SH紀要」《赤毛組合》で謎のフランス金貨でノーベル賞並みの研究をされた佐々木一仁さんです。今回は「ホームズを読むための法律論」で、世界の法体系の大別は英米法と大陸法、日本の明治期からの法制度から始まり、英米法を13世紀の起源から英・米国諸国での違いや英国法の特色のなかでユニークな養成制度で4法学院での同じ釜の飯を食べるなどを面白く愉快に話された。
ヴィクトリア後期のホームズの実用的知識、制度の信頼、当時の法制改革について、そして《瀕死の探偵》に登場する原文のreversion相続の問題についての訳と、「英米法事典」から引用して詳しく説明され、今後の研究課題にする、とあり、今後の期待が持たれる。
次の発表は心理学専門で著名な増田匡裕さん。題は「『“癒し系”仮説』に基づいて解釈するホームズの戦略的な冷淡さ」である。“癒し系”仮説を立てた後の困難さから始まり、経験に裏付けられた仮設構成こそが真実の探求に不可欠であり、心理学者J.ブルーナーの文献や正典の原文で具体例をあげられた。「何故こんなことを学ぶのか」の答えが幾らでも見つかる宝庫の《花嫁失踪事件》を取り上げている。ワトスンが「僕にはサッパリ解らない、話は同じに聞いていたのにネ」、ホームズは「それは僕と違って前例に明るくないからさ。」などを説明された。
仮説を立てるとは「見え」をつくることであり、ホームズの優しさの例外《入院患者》でブレッシントンが「相談に乗ってくれないのですか」と狼狽え叫ぶとホームズは「私を騙そうとするなら相談には乗れません…本当のことをおっしゃらないからです」と言っている。またホームズの助言・冷淡さの「ポライトネス理論」でPositive/Negative Faceの違いとコミニュケションでのFTAついて述べられた。
また「同じものを見る」ための意地悪を《スリー・クォーターの失踪》を例に、オヴァートンの「ホームズさんはこれ迄何処に住んでおられたのですか」に対し、ホームズは「貴方と私とは別の苦労のない世界におられる….腰を下ろしてゆっくり、落ち着いて、正確に、一体何をどう助けてほしいか」と言っている例をあげられた。
諮問の基本姿勢は決めつけないことであり、会話のトラブルの事例、テキサス・フォーンコールを例に、応答ペアのトラブル:違う「ペア」が選ばれた悲劇を例に纏められ、次回が待たれる。
最後の発表は、最近「キリスト教と死」を出版され、近世イギリス史専門で著名なる指 昭博さんで「書棚を埋める五冊の本」である。
冒頭に、ロシアのモスクワに海外出張した時に撮影しておられたホームズとワトソンの像の写真を呈示し、目を引いた。
《空家の冒険》で老人‐ホームズの如く大事そうに6冊の原本を抱えて登場され、ホームズのどこの古書店は存在したか?で始まった。
1冊目は、世界で60冊しかないといわれる番号10冊目の「樹木崇拝の起源」The Origin of Tree Warshipで旧来説では特定されず、インドの民族宗教研究書がこのタイトルを持つが該当するのはThe Attis of Caius Velerius Catullus, Translated into English Verse, with Dissertations On the Myth of Attis, on the Origin of Tree-Warship, and on the Galliambic metre by Grant Allen, B, A., formerly Postmaster of Merton College, Oxford (1892) である。
2~4冊目は「英国の鳥類」A History of British Birds で同じ書名主要候補として①精密絵画で高価、人気のThomas Bewick (1797-1804) 2vols、②ベアリング=グールド説で表紙が①と同じで巻数が多く安価なFrancis Orpen Morris (1851-57) 6vols、③実用的で図鑑が多いWilliam Yarrell(1843)3volsの3冊である。
Antique booksとして相応しいのはBewick1826 (6th), 1832 (7th), 1847 (8th)が妥当かとされている。
5冊目はCatullus上記「樹木信仰の起源」を「カトゥルス」とする説は妥当か?やはり、本来のカトゥルスの詩集と考えるべきだろうという。バスカヴィル版カトゥルス(1772年)は8vo.と4toの2種類があるといわれる。
6冊目は「聖戦」The Holy War 通説はバニヤンの著作とされ、安価な本が殆どでおそらく当時は100均本扱い。バニヤン以外の候補としてThomas FullerのHistory of the Holy warre (1639)。17世紀にはいくつかの版があるが、18世紀にはない(?)、19世紀になり復活している。このなかで可能性の高いのがPickering版(1840年頃)だという。
最後に「樹木崇拝の起源」の謎について次の2点について締め切られた。
◆なぜワトスンはこの書籍を知っていたのか?
著者G. アレンはコナン₌ドイルの近所に住み、親しい友人の間柄であって出版代理人として、書籍の貸借があり、またジョージ・ニューンズ社から出版物の事は知っていた。
◆なぜホームズはこの書籍を持っていたのか?
ホームズは失踪中でチベットに赴いている、チベット仏教での「一切衆生悉有仏性論」生きとし生けるものは、全て仏となり成仏となる性質を内に持っているという説に感心があったからであろうと。他にThomas FullerのHistory of the Holy Warre(1639)が19世紀になり復活したこと。The Holy WarのPickeringのバラ戦争のヨークシャや、ランカシャーのウオルター・ホームズ、トーントンの戦い等祖先の地との関わりがあった、ということで締めとなった。
質疑応答の際たるものはどうしてこれらのレア本を手に入れられたかであったが、残念ながらヒミツであった。追分フォーラムの校長先生に中尾先生が、仏滅会250回記念仏滅会6月の実行委員長に私が指名される。
記念行事は本日から始まっており、機関紙SH紀元133年納め号に特集(1)から連載。シアターOMの大木PMからの《ボヘミアの醜聞》観劇と次回3月20~22日の《赤毛連盟》公演の案内。本日の新入会員へ221回記念の221mlのライン付きジョッキの贈呈。次回2月仏滅会案内が森田由紀子さんからあった。懇親会は近くのビヤホールでお酒と話で盛りあがり、次回2月の神戸仏滅会を楽しみにして三々五々と散会したのでありました。