奈良例会仏滅会のご報告
渡辺利枝子
10月6日日曜日仏滅、JSHC関西支部奈良例会が開かれた。最初の発表は中尾真里さんで「カズオ・イシグロ『浮世の画家』とミステリー」。中尾さんも最初は『英国式庭園』のご著書からのゲスト講師だったと記憶する。2001年のこと、月日の流れに驚嘆する。
まずは作中にホームズの言及があり、主人公も彼に憧れ、今は彼に匹敵するほどの名探偵となった設定の『私たちが孤児だったころ』より。イシグロの多くの作品は一人称の語りで「信頼できない語り手」。推理小説なら叙述トリックとなぞらえるところにハッとさせられた。20世紀には壊された「教養小説」の形、本人にとって意外な真相にたどり着き、それを事実として受け入れることが主人公の成長につながる。
さて『浮世の画家』は二作目で終戦後数年経った日本が舞台である。著名な画家だったオノ マスジが過去の記憶を手繰り少しずつ語るが、次々に謎が浮かび上がる。一種のミステリー仕立てなのだが、探偵はおらず、真相は一つとは限らない。イシグロの文章は、日本人から見ると名前や尊称など小さな違和感はあるものの、自然な英語でセンテンスが長く流麗だそうだ。コナン=ドイルよりずっと読みやすくいとのことだった。
質疑応答で林庄宏さんから、渡辺謙主演ドラマに先立ち『日曜美術館』でドラマで使われた絵画と現代画家の特集があったと指摘があった。オノが描いたとされる戦争協力画に中尾さん、林さんとも違和感を抱いたがイシグロ氏は絶賛だったそうだ。ドラマが見たくなったが今のところDVDも動画配信もない。さて原作を読みましょうか。
ティブレイクにJSHC大会で熊本の村上さんからいただいた熊本銘菓陣太鼓が配られた。ありがとうございます。次は、近況報告と情報交換。充実し過ぎて予定を大幅にオーバー、西川先生の時間が短くなってしまったのが、返す返すも残念だった。
話題は、三谷幸喜作『愛と哀しみのシャーロック・ホームズ』のことが多く、観てきた人、グッズ買った人、記事を読んで観たくなり当日券(特上の席だったそう)をゲットした人など。聖典を知らなくても面白いが、シャーロキアンだとますます楽しめるお芝居というのは共通した感想だった。DVDが出たら、皆で観たいものだ。またこれから始まるテレビドラマ『シャーロック
アントールド ストーリーズ』、アニメ『歌舞伎町シャーロック』にも期待が高まった。
初参加の方がふたり、ツイッターを見てという方もおり、ホームズ仏滅会(@wholmes221b)を担当してる私としてはとてもやりがいを感じた。これからも頑張るのでよろしくお願いします。
さて、ゲスト講師の西川秀和先生の「『ドイルの北氷洋日記』について」だが、先生は切り上げる時間を訊いて「じゃ、そこまででやります」とさすがプロのお仕事だった。大阪大学外国語学部講師で米国大統領の研究書も上梓されている。ツイッターで希望の出た著作権切れの歴史資料を次々と翻訳出版。オンデマンド出版と電子書籍なので、昔の自費出版のような大金は必要なくネットで広めて希望する人に届けることができる。今までオンラインゲームの関連文献を訳してきたが、関西支部の相宅史子さんの提案で今回、コナン・ドイルの捕鯨船での日誌を訳してくださった。今回ご好意により雑誌記事翻訳おまけ付きで割引販売だったが、ご持参の10冊は完売した。
ドイルの筆跡は几帳面で読みやすいが、文章は他人に読まれることを前提としておらず、当時のことを調べる使う必要があったそうだ。また英文の翻刻や註の間違いもあったという。日誌を読んで行くと氷の海に何度も落ちるほどの無謀な青年がこの旅を通じて精神的に成長していく様がわかった。読書記録もあり、当時よく読まれたものと北極海の紀行本を読んでいる。その中には「僕のボズウェル」で我々にはおなじみの『サミュエル・ジョンソン伝』もある。
話は尽きないが、時間が来てしまい、お開きとなった。西川先生は二次会にも参加してくださって、お話を伺うことが出来た。本当にありがとうございました。そして、至らぬことがいろいろで申し訳ありませんでした。二次会にも奈良例会では多分最高の17名の参加があり、みなさんのご協力に感謝します。来年はタイムスケジュールを工夫しますので、また来てくださいね。