仏滅会報告

10月奈良仏滅会報告
林 千佳・渡辺利枝子


記録的な酷暑もやっと終わる気配を見せ始めた10月ですが、天気予報では気温が上がりにわか雨の可能性もありるとのこと。一抹の不安はありましたが、2年ぶりの奈良女性センター。二次会はいつもの店、近鉄を利用すれば雨に濡れる心配のない好条件の会場での開催なのでした!
 奈良に着くと暑いくらい。奈良市の観光の拠点は近鉄奈良駅界隈。半端ない混雑でした!
 少しだけ時間があり、年に1度の奈良、チェックしたいお店がいろいろ、金券ショップ、アンティークショップ、麻屋さん、地元の野菜販売店、と駆け足で欲望を満たしたのでした。…何も買ってないけど…
 会場に入れるのは開始予定のわずか15分前、慌ただしく準備します。発表の資料とWEJを並べ、参加費や来年分の年会費の徴収の用意も。何も考える間もなく対応していると、支払いに並んだ参加者から「えっ?もう? 次が12月だから…ああそうか!もうそんな時期か…!」との声が聞こえます.「もうそんな時期」なのでした…
 発表者の奈良在住の中尾さんがこの混雑のため遅れる波乱のスタートとなるも、急な順番の変更を快く引き受けて下さった篠田さんの発表「ドイルから見たレストレード」が始まりました。
 「私の推しを発表したかった!」という発表。ホームズ研究者でも見過ごされがちな警察官、何編に登場し、どんな外見や特性を持ち合わせているか、という新しい視点でのデータの開陳でした!聖典に名前を持って登場する警官は3人。そんなこと知らなかった…!人は多いのでは?その中で突出して多くの登場回数を誇るレストレードの、外見の記述の変遷、物語の中での行動、ホームズとの関係、そんな諸々が作品発表の順にまとめられ、遂には「ドイルもレストレードが好きになっていった」過程も述べられました!ところが!この発表はこれに終わりません!彼女の「推し」の話はこれからだったのです。グラナダ版ホームズでレストレード役を務めた御年94歳のコリン・ジェボンズに言及。ホームズ撮影時の映像に始まり、65歳での俳優引退、愛妻との生活、引退後の様子まで熱を込めて語られました。「彼が存命の間にこの話をしたかった!」聖典に登場する警官たちを語るニッチな視点で始まった発表、熱い推しのパワーを参加者に送ってくれました!
 休憩中に見吉さんからのハロウィンのお菓子の差し入れがありました
 後半の発表は中尾さん、「ポスト・コロニアリズムとミステリー アガサ・クリスティ『カリブ海の秘密』」クリスティーを原語で読む読書会の講師を引き受けた中尾さんは指定された『カリブ海の秘密』を取り寄せたが、受講者の持っているものと版が違う。どちらもハーパー・コリンズ社だが、中尾さんのは2002年版、受講者のは2022年版。読んでいくと‘22年版には削られている場所があることに気づく。カットされてたのは大体がポスト・コロニアリズムの視点から問題とされる表現。放言老人の人種差別発言は当然ながら、カラードもブラックもニグロもダークもカット、ステレオタイプに肉体美や美しい白い歯を褒めるのもダメ。「ポスト・コロニアリズム」とは植民地時代の負の遺産を植民地化された人々の視点からとらえ直す考え方(広辞苑)だそう。植民地時代は東洋(非欧州)人は西洋人より劣っているとされた。英国的なオースティン『マンスフィールド・パーク』でさえ西インド諸島に所有する農園故に裕福なのであり、『ジェーン・エア』では西インド諸島出身、気性が激しく発狂し幽閉される英人女性がいる。そしてドイルの時代はまさに帝国主義、インドや南アフリカ、豪州、中国渡航歴を持つ登場人物も。質疑応答で前記の狂女と「ソア橋」の夫人の境遇、性格の類似を指摘した人もいた。そのコロニアリズムの名残が1964年『カリブ海の秘密』。21世紀に入りその無意識な表現も批判されるようになった。ただ、クリスティーのオリジナルの表現が読めなくなるのはどうだろうか?早川書房の新訳には現在の規範からは差別的と取れるがクリスティ自身にその意図はなかったので残していると但し書きが入っている。など盛り上がった。
 二次会はいつもの美味しい中華料理で。三次会もいつものバー。「いつもの」幸せな1日となりました。
 最後に嬉しいお知らせです!今回、新しい仲間が増えました。なんと平均年齢を一気に下げてくれる中学生!小畑立夏さんです。若い好奇心を満たせる良い活動を今後も続けたいと気持ちを新たにしました。