第263回12月仏滅会レポート
福島 賛
寒さも一気に真冬並になり、第8波と呼ばれる新型コロナウィルスの感染流行の波も気になるところではあるものの、3年ぶりに行動制限のない年末を迎えつつある12月4日の土曜日、第263回仏滅会が大阪市立総合生涯学習センター5階第4研修室にて開催されました。
事前告知が「第3研修室」となっていたハプニングがありながらも、天候にも恵まれたこともあり、さすがホームズの弟子たち、変更後の会場が初めての方や後から来られた方も含め22名の参加がありました。
会場のセッティングでは、今年5月の追分フォーラムで時間切れとなっていた、見吉さんの発表資料「新潮版延原謙訳題パロディ『セルローコルレス』60タイトル一覧表」が張り出され、気の早い会員はさっそく投票を始めていました。単にタイトルだけでなく、推理小説の巻末の目録についているようなちょっとした内容の紹介も笑いを誘います。
これは2番手で発表をつとめる見吉さん作成の資料としてあらかじめ手際よく準備されたもので、過去に『ホームズのクリスマス年鑑』1988年版の巻末に広告の形で発表されたとのこと。関西支部におけるパロディ好きな会員の面目躍如たる活動の産物です。
幹事の森田さんから開会の挨拶と今日の予定についての案内があり、それから発表へと移りました。司会は副幹事の吉田さんが担当されました。
まず新野さんの発表「テキストマイニングでホームズを読む」から。テキストマイニングとは聞きなれない言葉ですが、膨大なテキストデータからAIを使用して情報や知識を探し出す研究で、ビッグデータを可視化するデータサイエンスの一種だそうです。昔であれば人の手で何年もかかっていたようなデータの整理とそこから導き出される傾向の分析が可能となるに当たって、《最後の事件》の前後でホームズの変化を探り、同一人物かどうかを調べたとのこと。 WEB上で利用できる日本語訳しか利用できないとは言え、これまで漠然としていた印象をデータではっきりと明示されていて、質問もたくさん出ました。和歌山医大の増田さんからは、普通に「科研費(科学研究費補助金)」が取れる研究なのではないかという評価も聞かれました。これまでホームズ学でも科学的な発表というものはある程度あったように思いますが、また違った新しい分野が拓けたのではないでしょうか。
記念撮影の後、各自で用意した飲み物と差し入れのお菓子によるティー・ブレイクをはさみ、近況報告では先日奈良女子大学で開かれた中尾さんのシンポジウム「Boys’
Own Paperとコナン・ドイル」について簡単な報告がありました。これについてはまた別の機会にWEJでも報告があると思われます。
続いて見吉さんによる、追分フォーラムから継続する発表「新潮版延原謙訳題パロディ『セムローコルレス』60タイトル人気投票~よみがえれ20世紀の怪作『セムローコルレス』」。関西支部のパロディ愛好家の作品再読で、『セムローコルレス』60タイトルの案内が行われ、各自10票ずつ好きなタイトルに投票しました。全くのバラバラではなく、パロディの語呂の出来具合が良いものや、あったと仮定すれば読みたい内容に多くの票が集まっている、との感想もありました。
今年の大トリの発表は中島さんによる「シャーロック・ホームズのナラトロジー」。ナラトロジーも聞きなれない言葉でしたが、《まだらの紐》を例にとり、「物語論」として、読み方の反省と解釈の再考を論じられました。聖典を紋切り型的な読み方で解釈して祀り上げるのではなく、大事なのは「語り手の視点」に注目することだそう。例を挙げれば、小林司さんが指摘なさったような「姉のジュリアが死亡した時に、蛇の噛んだ傷跡や体内に残った蛇毒が検死官に発見されなかったのは理解できない」というような外部的要因から来る論考にも落とし穴があり、もっとテキストをありのままに読むこと、語られていないことを補い、かつ整合性を伴って読むことの重要性を説いておられました。
実際、英語の部分を読むと、語り手であるワトソンは「検出に成功しなかった」と書いているだけで、「検出されなかった」ことが確定していたわけではないのです。小林さんと中島さんは以前比較文学会で中島さんが司会を務められた時にお会いになったとのことで、意外な接点も初耳でした。
その後、中島さんから提供していただいた賞品をめぐってビンゴゲームも行われ、福島がアシスタントを務めました。その後次回264回記念仏滅会についてアナウンスがあり、幹事の森田さんが締めくくりの挨拶をされ、お開きとなりました。
二次会はグランフロントの「世界のビール博物館」というお店で、仙台から遠来の角田さんにご挨拶と乾杯の発声をお願いし、計13名がスペインコース料理を堪能しました。三次会は有志の人たちで梅田のワイン・バーへと流れていき、年末の大阪の夜は更けてゆくのでした。