英国と日本で異なる3月の季節感
日本では、国や自治体の年度にせよ、学校の学年せよ、3月が一つのキリとなっている。新入生や新入社員が顔を見せ、人事異動で担任や校長が交代し、部課長など上司も同僚も入れ替わり新しい体制が4月からスタートする。
ホームズの事件簿では、3月の事件は少ない。《緋色の研究》と《ウィステリア荘》《悪魔の脚》が数えられるのみである。
この内《緋色の研究》は、3月4日に依頼者がベーカー街にやって来たのでこの日がホームズにとって事件の発端であるが、第Ⅱ部の「聖徒たちの国」は1847年5月4日の日付がある北アメリカでの事件が大部分を占める。総じて3月の事件といえるだろうか。
《ウィステリア荘》は3月の終わりに依頼者からの電報が届いたことに始まる。現地でホームズが春の植物を採取したシーンがあるが、特に3月である必要はない事件である。
《悪魔の脚》は、ホームズの健康が1897年に不調となり、コーンウォールに転地した時の物語である。3月16日との日付があるが「コーンウォールに春が訪れようとしているといった情景の描写あるものの。日本とは季節感がかなり異なるようである。ホームズは、春を待つ心情や「春の野に出て若菜摘む」といった詩情とは無縁の育ち方をしたように見える。