夢の話2
2.「何かがある」家
時々、引っ越しの夢を見る。たいがい、今の家より大きな家に引っ越す夢だ。今の家の広さに満足していないのか自分は。
夢で引っ越す家はいつも新築ではなくていわゆる中古物件だ。そして「変な家」なのだ。
家自体は普通の戸建てなのに裏庭がやたらと広くて木や藪が茂っていてその庭に「何かがある」とか、モダンな造りの今どきの家なのにやたらと間取りが入り組んでいて迷路みたいだったり、内装がボロボロで土壁が崩れている家もあった。つまり、どこか「難」がある家なのだ。
一番印象的だった夢の家はどうやら、古民家らしい。らしい、というのは外観が夢に出てこないからだ。古い民家によくある襖で仕切られた和室の続き間がいくつか並んでいるという造りで、その一番端の部屋の襖の奥に階段がある。部屋は廊下でつながっていて、これもよくあるように庭側に木枠のガラス戸が並んでいる。部屋の廊下側は障子だ。つまり、ちょっと大きめの田舎の家らしい造りなのだ。
私は子供らといっしょにその一室にふとんをひいている。障子が空いていて廊下と暗い庭が見える。雨戸は閉まっていないようだ。夜だが、家の中は電灯がついているのか明るい。続き間の中ほどの部屋で、閉まっている襖の向こうには他の部屋がある。その片側の襖の向こうが押し入れに階段のある突き当りの部屋なのだ。
私はその奥の部屋が怖くてたまらないのだ。別に何かがある、というわけではない。他の和室と同じ作りの何も変わったことのない部屋なのに、「何かがある。」という気がしてしかたがない。
そして、私は自分に腹をたてている。せっかくいい家に引っ越したのに、意味もなく怖がるなんて、と。私は原因を突き止めようと隣の部屋に入ってみる。やはり電灯が煌々と照らす単なる和室だ。ややこしい影すらない。次に押し入れを開けて階段を登る。怖いけど決して負けない気持ちだ。ここでめげたらこの家に住めなくなるという気がしている。
階段を登った先には奇妙な部屋があった。丸でもなく四角でもない多角形の天井の低い部屋でぐるっと周りに窓がある。窓の下には棚が作られていて何やら人が使っていたらしくいろんなものが突っ込まれている。そしきっちりと畳が敷かれている。狭いが、快適そうだ。この家は平屋なのだろう、窓の外は周囲が屋根になっている。つまり家の屋根の端にちょこんと飛び出た展望室のような造りなのだ。
なんでこんな部屋があるのか、誰が使っていたのかわからない。でも私はここがなんだか「こわい」と感じる中心なのだと思う。
特に何が怖いのかわからないのに、ただ、その場所が怖い。意味が分からない夢だ。ただ、その家はいやにはっきりと記憶に残っている。
私の「怖い夢」はそういうのが多い。怖いと思う対象はちっとも出てこない。前に書いた、やたらと広い庭のどこかに「何か」があるような気がするという夢も同じような感じだ。別に茂った木の下に貞子が出て来そうな古井戸があるわけではない。
夢で私はいつも新しい自分の家で快適に暮らそうと「怖い気持ち」に抗っている。主婦やもん、不吉な気配なんかに負けてはいられないのだ。
と言いつつ、本当はとっても怖がりなのだ。なんでこんな夢を見るのだろう。