旅の理由
「聖地巡礼」という言葉はご存じでしょう。近頃よく聞きます。自分が関心を持つ、映画やアニメやドラマ、小説など、また「押し」のゆかりの地を実際に尋ねる旅の事ですね。先日行われたJSHCの松山全国大会では映画「バスカヴィル家の犬」の撮影地を訪ねられたそうです。松山もホームズファンにとっての聖地なんですね。
「聖地」とは自分が大切に思う物語の舞台であると思うのです。そこをこの目で見たい、と憧れて実際に訪れるのは大きな喜びです。前にも書いた「ここよ!」と言える旅です。
以前、仏滅会の記念行事でホームズの「聖地巡礼」に行った話をしました。スイスのマイリンゲンと もちろん、ロンドンです。多くのホームズファンの方々が訪れ、ホームズの足跡を辿っておられます。
そこで同じくロンドンを訪れながら、印象に残らず「どこを見たのか覚えていない」というおばさま方に会った、せっかくの旅行なのにもったいない、と書きました。しかし、です。その方たちにも旅に出た理由があるはずです。高いツァー代金を支払って参加しておられるのだから、何かはっきりとした目的があったのでしょう。
自分はホームズ物語が好きなのでロンドンとその周辺を駆けずり回って「ここよ!ここであの事件があったのよ。」と叫んで満足していました。それがおばさま達の旅する理由より価値のあるものである、というのはおこがましすぎます。旅行ガイドブックを見るとその街の見どころや名物、おみやげや、グルメなどたくさんの魅力的な記事が載っています。我々はそれらより、もっともっとホームズの物語というものに魅力を感じ、その現場を見ることに価値を見出しただけです。名所旧跡をめぐり、ご当地グルメを楽しむことも旅行のだいご味。「聖地巡礼」のほうが上等というのは傲慢でしかありません。
今よりずっと旅が困難であった昔から人は旅をしていました。奥州の細道を行った松尾芭蕉さんも、イタリアを目指したゲーテさんも旅する情熱に憑かれて長い旅をしました。なんででしょう?今自分のいる安全な場所を離れて体力もお金もかけて。
それはやっぱり楽しいからではないでしょうか。いつもとは違う景色やまだ見ぬものを観に行く。好奇心を満足させてくれる旅は冒険です。「冒険とは行って帰って来る物語だ」とテレビで冒険小説を解説していた方が言っていました。平凡な日常から冒険という非日常へ。そしてまた穏やかな日常に戻る。安全に旅のできる今も旅行とはささやかな冒険なんでしょう。そういえば、トールキンの名作「指輪物語」の主人公の記録も「ゆきて帰りし物語」になってましたっけ。(フロドさんの冒険は決してささやかなものではありませんでしたけど(;^ω^))
さて、あの殺人的な暑さも和らぎ、空の色も深くなってきました。わたしめもまた旅という冒険に出たくなりました。
今度の旅の目的は灰色のロバです。その話はまた別の機会に。